今日も今日とて衛宮家の食卓は賑やかである。
つい半年前までは、俺と藤ねえ、桜の三人だったが、今ではその倍、六人となっている。
「う〜ん、やっぱり士郎のご飯は美味しい〜」
「藤ねえ、いい年した女性が飯をかきこむな」
本当にこの飢えた駄目虎は。
「先輩、この味付けとかどうやっているんですか?」
「ああ、それはな・・・」
煮付けの味付けについて桜に教えていると
「衛宮君、あんた更に腕が上がったんじゃないの?」
「ふふん、料理は日々の経験はものを言うからな」
「ふ〜ん、そう言うものなの?でもいっか。シロウのご飯が美味しければ文句ないし」
自慢げな俺に対し悔しげな遠坂、それと対照的に満面の笑みを浮かべるイリヤ。
そんな賑やかな食事の中ただ一人。
「ハムハム・・・ハムハム」
一言も発せず黙々と食べるのはセイバー。
感想が無いので最初は不安がるが、これはセイバー流では美味しいと言う事。
(下手なものを出せばその場でフルアーマーダブルセイバーと化す。いや最悪『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』発動もありうる)
そんなセイバーを横目でちらりと見た遠坂がポツリと呟く。
「ほんと、セイバーって大食らいよね」
この呟きが始まりだった。
その言葉にぴたりとセイバーの箸が止まる。
「リン、今聞き捨てなら無い言葉を発しましたね。訂正を速やかに要求します。私はきめ細かい食事が好きであって、量があれば満足するような者ではありません」
「そうかしら?いつも丼三杯のセイバーさんが〜?」
「な、何を言い出すのですか!!!」
そんな風に言っていると藤ねえが
「そうよね〜。セイバーちゃんあたかも当然の様に丼に盛られたご飯を受け取っているし、それも大盛りで」
「えっ?どう言う事ですか?タイガ、普通はこれが標準サイズではないのですか?」
セイバー・・・君は本気で言っているのか?
まあ、丼だと言う事も黙っていた俺も俺だが。
だが普通は気付くだろ?
「え〜っと・・・セイバー落ち着いて聞いてくれ。確かにこれは丼と言う物だ。普通のご飯だったら、こんな茶碗で充分なんだよ」
そう言い俺は自分の茶碗を出す。
「し、知りませんでした・・・てっきりシロウ達は小食とばかり・・・」
「「「「「そんなわけ無いだろ(でしょ)」」」」」
セイバーの一言に俺達は一斉に突っ込む。
「これは確定ね。セイバーは大飯食らい。食いしん坊ね」
イリヤの断定的発言に図らずも全員頷く。
「な、なななななななな・・・却下です!!訂正です!!謝罪です!!」
それにセイバーさん、大激怒。
完全武装一歩手前だ。
「じゃあセイバーは何だって言うの?」
「決まっています!!私は美食家です!!!」
沈黙が下り立った。
「「「「「・・・・・・・はぁ・・・」」」」」
「!!シ、シロウ!リン!サクラ!イリヤスフィール!タイガ!!何ですか!!今の溜息は!!釈明を求めます!!」
「いや、別に他意は無いよ・・・ただセイバーが随分と身の程知らずな発言をしているから・・・」
「何故ですか!!」
「だってねぇ〜」
「そうよねぇ〜」
遠坂とイリヤがあくまな笑みでセイバーを嘲笑う。
「えっと・・・セイバーさん、あまり無茶な事は言わない方が・・・」
桜が控えめに諭す。
そこに我が駄目虎が止めの一言を発した。
「そうよねぇ〜だって美食家って小食でしょ?そんながつがつ食うイメージじゃないし、セイバーちゃんじゃ無理よ〜」
その一言に臨界点を突破したのだろう。セイバーは仁王立ちすると
「わかりました!!そこまで言うのでしたら明日の朝食から小食にします!!美食家を目指します!目指してやろうじゃないですか!!!」
「ええっ!!セ、セイバー、落ち付け」
「シロウ!!これが落ち着いていられますか!!ここまで愚弄された以上雪辱を期さねばならないのです!!」
「馬鹿何言っているセイバー!セイバー程の大食らい・食いしん坊・食欲魔人が一般人と同じ量で満足できる筈無いだろう!!」
最初に断っておく、俺はセイバーを愚弄していない。
純粋にセイバーの身を案じただけだった。
しかし、中に入っていた言葉に多大な問題があった。
「フ、フフフフフフフフフフフ・・・そうですか・・・シロウ・・・遺言はそれだけですか?」
「へ?あ、あの・・・セイバーさん、何処に行こうとしているのですか?・・あの何故に俺は引っ張られるのですか?」
そのまま俺はセイバーに引き摺られる様に道場に連行され・・・その後
「ぎゃああああああああ!!!」
何があったかは察しの通りだと思う。
翌日、俺は急遽用意したセイバー用の新しい茶碗にご飯を盛る。
「ああ、桜おはよう」
「おはようございます。先輩・・・あれ?これは・・・」
とそこにやってきた、桜に挨拶を交わす。
「ああ、これ?セイバー用の茶碗」
「あれ?ですが・・・ああ、そうでしたね・・・」
「そう言うこと」
俺と桜は顔を見合わせる。
と、そこに
「「士郎(シロウ)!!ご飯〜!!!」」
叫びながら虎(藤ねえ)とあくまの弟子(イリヤ)が駆け込んでくる。
「あ〜はいはい、わかったから、大人しく待ってろ」
ただ一言そう言うと、ご飯、味噌汁、鮭の粕漬けを手際良く並べる。
「うううう・・・おはよう〜」
そこにゾンビよろしく遠坂がのろのろと居間に入ってくる。
「遠坂、とりあえず牛乳飲んで来い。相変わらずと言えばそこまでだがかなりきつくなっているぞ」
「うん・・・そうする〜」
幽霊のように足音一つ立てずに台所に向かうあかい亡霊。
そして最後に対照的なしっかりとした足取りで
「おはようございますシロウ」
セイバーが入ってくる。
そして着席すると同時にセイバーは何故かきょろきょろとあたりを見渡す。
「??どうした?セイバー」
「い、いえ・・・べ、別にたいした事ではないのですが・・・」
何か落ち着きが無いなと思っていると、そこにイリヤが痛烈な一言を浴びせる。
「あら?セイバー忘れたの?貴女今日から大食らいを返上して美食家になるんでしょ?」
「!!わ、忘れてなどおりません!!ただ、私の茶碗を他の人が間違えないかと気がかりになっただけであって・・・」
嘘だ。
賭けても良い、セイバー自分の言った事忘れたな・・・
「なあセイバー辛い様だったら良いんだぞ。何時もの丼用意するから」
「で、では・・・」
「あら?まさか天下のセイバーが前言を撤回するなんて事は・・・」
「いえ!!お気遣いは無用です!!これで充分です!!」
あくまな笑みを浮かべる、遠坂の言葉に自分で自分の退路を塞ぐセイバー。
そんな意地を張るセイバーに俺と桜はただただ溜め息をつくより仕方なかった。
そして、昼や夜、そして翌日もセイバーはあの量で満足していた・・・いや、満足しているように見せかけていた。
しかし、そのやつれ様は時間を追う毎に酷さを増していく。
口では大丈夫と言いながら視線は俺達の食事をただ凝視している。
もはや忍耐と同居した感もあるセイバーだったが・・・
それは小食開始三日目に起きた。
「士郎―!!今日はこれ使って」
と、帰宅するなり藤ねえがどんと差し出したのは肉だった。
「??藤ねえこれどうしたんだ?」
「お爺様が旅行から帰って来たのよ今日。でこれ士郎におすそ分けって」
「へえ・・・って!!藤ねえ!!これまさか・・・」
「そう黒毛和牛の霜降り!!」
「うわっ!!すげえな・・・じゃあ今日はすき焼きにするか。せっかくの肉だし美味く頂きたいからな」
「うんっ!!士郎美味しいすき焼き期待しているわよ!!」
そう言う藤ねえをおいて、俺は買出しに出る。
すき焼きとなると野菜や卵も必要となるからな・・・だが・・・そうだなその恐れもあるか・・・
「念の為に用意しておくか」
そして夕食・・・なんとなく予感はしていた。
セイバーの既に焦点の合わない視線はぐつぐつ煮えるすき焼きにしっかりと注がれている。
その食欲をそそる匂いは容赦無くセイバーの嗅覚を通して胃袋に無慈悲な攻勢を続ける。
「うわぁ〜おいしそう〜」
「すき焼きなんてどうしたのよ衛宮君」
「雷河爺さんからのおすそ分けだ。野菜も肉もまだあるからしっかりと食ってくれよ」
「は〜い!!」
「じゃあセイバーはいつもの様に少しだけでしょ?」
その瞬間、遂に破局が始まった。
「・・・は・・・です」
地獄の底より這い上がるような声に居間は静寂に包まれた。
「??セ、セイバーちゃん」
セイバーの真正面に座る、藤ねえのやや引きつった表情と声が全てを物語っている。
「私は・・・です・・・」
「えっ?」
「セ、セイバー?」
一声ごとに殺気は陽炎の如く立ち昇り、あくまとその弟子も一歩下がる。
「私は・・・大食らいです!!!ええそうですとも!!食いしん坊です!!食欲魔人です!!!それがどうしましたか!!!食べましょう!!食べてやりましょう!!!食べてやろうじゃありませんか!!!」
そう言うと、戦場の如き烈気を漲らせて猛然とすき焼きを食べ始めた。
「やっぱりぶちきれたか・・・」
ある種悟りきった口調で言う俺に対して桜達が慌てて俺に言う。
「ちょっと先輩!!良いんですか?セイバーさんあの調子だと・・・」
「そうよ〜士郎私達のご飯無くなっちゃうわよ!!」
セイバーは何処からともなく取り出したいつもの丼にご飯を自分で装い速度を落とす事無くがつがつ食べる。
「ええ〜っ!!シロウのご飯食べられないの〜!!」
あの調子で食べれば数分後にはたぶん全部食べきる。
しかし、それは予測していた事だ。
「どうするのよ!!セイバーが食べきったら・・・」
「大丈夫だって遠坂、手は打ってあるから」
そう言うと、俺はセイバーに、
「セイバーそれ全部食べて良いからな」
俺の言葉にセイバーははっと顔を上げると
「シロウ!!!それは本当ですか!!」
眼をキラキラさせて俺に詰め寄る。
それとは対照的に俺に殺気を向ける四名様
「ああ、大丈夫、それはセイバー用で用意しておいたから」
「「「「「ええっ?」」」」」
驚く五人を尻目に俺はもう一つの鍋を用意する。
そこにはやはりすき焼きが用意されている。
「ええっどうしたのよ士郎!!」
「ああ、たぶんセイバーの我慢も限界かなと思って用意しておいたんだよ。幸い肉は結構な量だったから二つに分ける事くらい造作も無かったし、まさか、こうも的中するとは思わなかったけど」
そう言いながら新しいお櫃も用意する。
無論そこにはご飯が満載されている。
「さて、じゃあ改めて食事に入ろう。セイバーそれで足りなかったらこっちも食べて良いからな」
「はい!!シロウ貴方がマスターであった事を今日ほど感謝した事は無い」
そう言って幸せ満面の笑顔で食事を再開するセイバー。
こうして、『セイバーは美食家か大食らいか』の論争は決着を見たのだった。
無論セイバーは大食らい(自分で認める)だと言う事で全員一致の見解に至った訳であったが。
後書き(謝罪とも言う)
えー、今回セイバーをギャグキャラとした事に関しまして深く、深くお詫びいたします。(土下座)
釈明をさせて頂ければ、マトリアルで見たセイバーの資料では好きな物『決め細やかな食事』と書かれていただけで大食らいというよりは美食家と言う風な書き方でした。
それが何時の間にか『セイバー=大食らい』の公式が成り立ってしまった為『それではいけない!!」と思ったのですが・・・
結果は見るも無残でした。(深く反省)
とりあえずこんな物でも良ければ感想待っています。
あと、どのルートのものだと言う突っ込みも止めて下さい。
ギャグに整合性は求めません。